二人とも結局この部屋で朝まで寝ていたらしい。オルシュファンも机に突っ伏している。
液体化したようにくったりとしたアルフィノを抱え彼のベッドに抱き上げて運ぶ。
自分の半分もない細い体はとても軽く以前よりもさらに細くなったなと浮き上がったあばら骨にため 息が出つつも寝間着に着換えさせた。
石の家が襲撃され、どうしてよいのかも解らずただ墓を立てるしかなかったあの時。
乗り込 んできたのは血気盛んに現在の危機を知らせに来た少年。
帝国からの従属要請にエオルゼアの誇りを三国相手に熱く打ち上げ鼓舞した少年。
そして今こうしてベットに横たわるやせっぽっちの少年。
すべての「彼」を見てきた私は最近ようやく一人の「彼」として納得しているのを感じていた。
朝食の時間になり食堂に入ると部屋で眼を覚ましたオルシュファンは直ぐに身支度を整えていつもの貫禄たっぶりな指揮官の風情に戻っていた。
しかしさすがにこの男でもあの量はきつかったらしく顔色が泥の様だ。
お互い力なく改めて挨拶を交わし並んで座り胃に染みるような暖かいスー プを啜っているとメドグイスティルさんが勢いよく部屋に入ってきた。
「何なんですかこの瓶は・・・!」
毎日応接室を掃除してくれるのだが、昨夜の痕跡を片付けて見つけたらしい。両手に瓶を抱えている。
「流石に部屋の全部は飲めなかったなあ・・・旨かったなあ・・・また飲みたいなあ・・・・」
「・・・頂き物の大事なお酒なんですよ・・・飾り棚のなんか幾らすると思ってるんですか!!!」
相当お怒りだ。声というより気迫が二日酔いの頭を圧迫してぐわんぐわんする
「飲まれてこその酒なんだから・・・どうせ飾っとくだけなら水でも入れときやいいじゃないか。それっぽく見えるように色付けようか?」
「信じられない・・・・!!!そういう問題じゃないです!・・・・人としてクズです!なんてク ズ !!!」
「なっ・・・そこまでいうか!でもオルシュファンがいいって言ってくれたし!」
助けを出したがこいつでも彼女には勝てないのか曖味に笑っている。
「まあいいではないか。代わりの物を取り寄せて置くから・・」
「オルシュファン様も英雄様が来てから毎日飲みすぎです!・・・・二人は今日から禁酒です!!一滴も飲む事を許しませんからね!!!」
「なにっ・・・!」
オルシュファンまでとんだとばっちりをくらってしまったが、どうせ今夜はお互い二日酔いで飲めやしないだろう。
しかし散々クズ呼ばわりされて肩身が狭い。一人でしよんぼりとスープを啜るしかなかった。
トントンとドアをノックすると中から不機嫌そうにタタルさんが顔を出した。
「まだ寝てる・・?」
「・・・寝てるでっす」
アルフィノは二日酔いで昼になっても起きてこなかった。ベッドでまだ液状化している。
「折角楽しい集まりになると思ったのに何をやってるんでっす。アルフィノ様にこんなになるまで・・・」
「いやムリになんか飲ませてないよ?まあ酒ってのはこうやって自分が飲める量覚えていくんだよ・・
それが大人になるという事で・・・」
ギッと睨まれた。
「そこを止めるのも大人でっす!」
怒る声に反応してアルフィノがううん、と寝返りを打った。
二人であわあわとする。
「これこれ。焼りんご。すげえ旨いの」
両手に持った皿を差し出した。目の前の甘い果実の香りにタタルはすこし表情をほころばせた。
怒り狂ったメドグイスティルさんの機嫌を取ろうとして近くにある リンゴの木の穴場で取ってきたものだ。そうしたら彼女はりんごごときでごまかされません よとぼやきながらも作ってくれた。
二日酔いの胃によいだろうと。そして皆に配ってくれと 言うクエストを貰ってオルシュフアンにも届けた所だった。
「なんだかんだいいながら優しいんだよなあ」
「オルシュファン様の為でっす。きっと」
「食べる?」
「食べるでっす」
アルフィノが目をあけてこっちを見た。
「食べる?焼リンゴ」
掛け布団から顔を出していいや、と言うように手を振る。凡帳面な性格なのにそんな不精な返事をよこすとはどうもまだ食べるところではなさそうだ。
擦ったりんごとかの方がよかったかな。
「大丈夫か?」
枕もとのビッチャーから水を注いでグラスを手渡す。
「・・・・世界が遠い」
ちょっと笑ってしまった。