肌に感じる乾いて鋭い風。
荒廃した大地に奇妙に曲がりくねった木々。
遮る物がなく常にびゅうびゅうと音を立てて吹く風に全身を吹き付けられながら雲一つない空を背にし薪になるものはと地面を無心に探した。

よく乾いていて、丁度いい大きさで・・・
手にとって内部が湿っていないか重さを勘で図ったり、見事に乾燥しきった枯れ木の破片に大いに喜んで見たり。
両手で抱え込める量をなんとか集めると周囲はもう薄暗くなり始めていた。
 
━こんなものかな?
 
エスティニアンからまたダメ出しを喰らうんだろうか?そんなことにすこし期待をしている自分がいた。
文句を言われる事が楽しみだなんてことじゃなく、懸命に自分が知らなかったことを教えようとする真剣さが憎まれ口ばかり言う様子とは違い彼の本質を見る様で面白かった。

皆のいる場所に戻るとイゼルが何処からか集めたのか野菜の皮を小さな料理用ナイフで剥いている。

「お待ちかねの薪が来たか。氷女がシチューを作るそうだ、さあ火を起こすぞ」

彼女をそのあだ名で呼ぶのを気に入ったのだろうが、いい加減なんとかならないのか。
エスティニアンと光の戦士がてきぱきと石を積み上げ釣り鍋のための土台を設置する。
 
野営などした事はなく、いつもなら誰かに頼めばどんな事もこんな風に用意してくれただろう。
故郷の家でも召使達は命令するために存在しているのであって、むしろいかに仕事を与えられるかという教育をされてそれを疑うこともしなかった。

そんなことを思いながら見事な手際を眺めているとエスティニアンがこちらに来いと自分を呼ぶ。
 
「薪の積み方だ。よく燃えるように隙間を開けて組み上げるんだ」
 
ひょいひょいと薪を手に取り石で囲んだ中に立てかけるように並べていく。そしてナイフを取り出して薪についていた手で折るには少々太い長めの枝の根元に引っ掛けるようにして食い込ませ、すこし勢いをつけて振り下ろすとぱきりと気持ち良いほどに枝が取れる。ナイフは料理用よりは少し大きい程度で根元部分にのこぎりのようなギザギザがついていた。

「最初はたき付けに紙やら枯れ葉やら小さいものに火をつける。枝をこうやって刻んでおくのもいい」

切り取った枝を削るように切込みを入れると確かに厚みがなくなり燃えやすそうだ。
原理は解る。ただ自分がそれをやるとは思いもしなかっただけだ。
 
「これを持っておくか?」
 
エスティニアンが使っていたナイフをパチンと折りたたんで自分に差し出した。
 
「色々使い道はある。ペーパーナイフにしたっていいんだぜ?」
 
また皮肉なことをと思いながら、遠慮なくもらう事にした。
あと何が出来るだろう?と考えて見る。
例えば、こんな風に野営をするときに食材を採取するのに使えるだろうか。
森の中道なき道を遮るツタを切り落とすのに使えるだろうか。
例えば、縄を、何かを拘束するものを切るために。
━あの時に
ウルダハの祝賀会で、唐突にユユハセに呼び出された時。
あの場にいたクリスタルブレイブ達は全て敵。冷静に迷いもなく自分に告げられたユユハセの反逆のセリフをただ呆然と聞くしかなく、なすすべもなく囚われるしかなかった。このナイフで何が出来るかを考えて見た。目の前の残酷な笑顔へ振り下ろすナイフは押さえ込まれて取り上げられる場面しか想像できなくて苦笑する。
 
「そうだね。今度は野菜の剥きかたを教わろうか」
「…そんなこともした事がなかったのか」
「食事のときのナイフなら使えるんだけどね」
 
彼らには当たり前の事なのだ。木を切り野菜を刻み、目的の為に何かへ刃を向ける事。
このちいさなナイフで自分は何が出来るだろう?
もう一つの使い方が頭をよぎるがそれを振り払う。
覚悟の形は沢山ある。
おそらく彼と数多の場面を潜り抜けたのだろう
小さい自分のてのひらにも丁度よく収まり柄の部分の皮が使いこまれてなじみやすそうだ。

 

 

初出:多分2016秋頃

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