騎士団本部の扉を開けると正面に指令席がある。そこに座るアイメリクと机をはさんで小さな背中の姿があった。
アルフィノはよくここに出入りはしているので珍しい光景でもないのだが今日は何かが違う。
うつむき加減で微動だにせず、表情を見ずとも判るほどになにか深刻な気配が漂っている。
エスティニアンは声を掛けず成り行きを様子見するようにそっと司令室に近づいた。
 
「・・・解りました。それならまた別の方法を考えるしかありません」
 
怒張を孕んだ声にアイメリクが曇った表情で答える。
 
「力になれずにすまない。何かよい方法がないかは考えておこう」
 
「かまいませんよ。所詮異邦人ですから国の事情とやらがあるならそれまでの話です」
 
くるりと踵を返すと後ろで様子を伺っていたエスティニアンと向かい合わせになった。
表情もなく見上げる瞳にはかなりの怒りの光が沈んでいる。
 
「来てたのか」
 
「・・・お帰り」
 
ぼそっとそっけなくそれだけいうと、エスティニアンの横をすり抜け扉へ歩き出した。

 
「おい、アルフィノ・・・」

 
呼び止めて肩に手を掛けようとしたのだが、それを無視するように立ち止まりもせず進んでしまいそのまま部屋を出て行ってしまった。
日頃のアルフィノはいつもどこか微笑む表情で極力感情的にならぬようにと自制する印象が強かった。
それは二人でいるときも同じでエスティニアンのからかいに小生意気な事を言い返したりはするがそれも一歩引いて受け止める。
だからこそ情事で見せる留め金が外れた時の余裕のなさが可愛らしいのだが。
しかし、押さえ切れないほどの怒りが明らかに見て取れて、その上自分まであれほどつれない態度を取るという経験はない。

「怒ってるねえ」
 
「お前も来てたのか」
 
光の戦士が出て行く姿を見送ってぼそりとつぶやいた。
 
「何があった?」
 
「いや、フォルタン家から依頼されてアルフィノが国外の商社と結構いい取引をしていたんだよ。だけどなんか横槍がはいったらしくてさ」
 
「ゼーメルか。なるほど」
 
「それがまたアルフィノの面子をつぶすようなやり方でね」
 
「私もなんとかしたいのだがね。あちらの利益に絡むらしく迂闊に口は出せない状況なんだ」
 
アイメリクがややため息まじりで椅子の背もたれに寄りかかり腕を組む。
  
「あいつも結構気が強いからな。それにしてもつれない奴だ」
 
「・・・でも昔のアルフィノはあんな感じだったんだぜ。毒っ気だって強くてお前に負けてないぐらいだったしな。そりゃもう服の無駄に空いた穴へ雪突っ込んでやろうかってぐらい」
 
なにやら色々あって挫折を経験した話は聞いている。
最初は賢人たちの集まりである「暁」が、フォルタン家に客人として来ていると聞き自分の目的とおそらく一致するであろう彼らに接触を試みようとした時だ。丁度良く屋敷の前にいたのがあの光の戦士と、やたら小さいララフェルと恐らく党首である年若い少年で前評判とは不釣合いだと感じたのを覚えている。
実際党首様と共に行動してみると、権力者にありがちな理想ばかりは立派だが自分の手では何も行わないような言動。それでも諌めればそれを理解し受け止める素直さと忍耐力があった。
過去の失敗話を聞けば、まだこんな少年が背負うにはいささか重いだろうと同情もした。しかしそれも受け止 める覚悟と、綺麗事でしかない青臭い理想に真剣に向かう様子はアイメリクとも通じている。
ただやはりこうした権力の裏の淀みを受け流すのは強い正義感がどうしても許さないのだろう。
 
「若さゆえの怒りと無力感てヤツか。それぐらい骨がなきゃまあ立派な党首様にはなれんだろがな」
 
「ダメならダメで仕方ないさ。アルフィノも解ってるだろ。イシュガルド貴族様が絡んでるなら取引先だって察するだろうし、すぐ頭も冷えるさ」
 
そう言うとフォルタン家へ戻るからと光の戦士が後を追うように本部を出て行き、エスティニアンも本来の業務に 戻ろうとアイメリクの元へ報告に向かった。

 
「・・・いいのか? あのままで」
 
「別に頭ヨシヨシしても手厳しく払われるだろさっきみたいに。心配もない」
 
「心配はしていないが気になっていそうだなと思ってね。じゃあ一つ頼みを聞いてくれるかな?」
 
「様子を見に行って来いって命令か? ・・・余計な配慮を有難く受け取るさ総長様」
 
素直じゃないのが一周回ってなおさら素直じゃない態度で出かけていくのをアイメリクは見送った
 
「言われなくても行く、ってセリフを言えなかったのにご立腹かな?」
 
横にいたルキアがクスリと笑った。

 


エスティニアンは平服に着替えフォルタン家を訪れたがアルフィノは戻っていないと言う。
 
「英雄殿は戻られましたが・・・なにやら緊急の御用でも?」
 
「伝言を頼まれただけだ大した事はない。党首様もお忙しいだろうからまた何処かの用事に取り掛かってるんだ ろうな。失礼した」
 
実際今回の処理にあちこち走り回ってるのかもしれない。リンクシェルで呼び出すほどでもないし、どうしたも のかと考える。
あともう一つ心当たりがある場所はあった。
真っ直ぐに道の続く宝杖通りをラストヴィジルから反対方向に進むと庶民層向けの店舗が並びはじめる。
そこから横に伸びる小さな路地は労働層のアパルトメント区になっている。
中でも古く石壁の色も媒汚れた 数階建ての建物。右側部分の扉の無い入り口から入ると横へ個室に繋がる通路と正面に狭い階段があり、数階登っ て窓はあるがく大して陽の入らぬ薄暗い通路から一つの古びた木
のドアの前に到着した。
自分か借りた部屋では あるが先客・・同居人がいる可能性の為にノックをする。
返事は無かったがドアノブを回すと鍵はかけられてい なかった。
 
「いるのか?」
 
扉を開け中に入ると午後の斜光が差し込む窓際の椅子に座る姿があった。
アルフィノは振り返るわけでもなく、椅子の手すりにひじを突き頼杖をついて窓の外を眺めている。
 
「・・・まだご機嫌斜めか?」
 
先ほどのような怒りの気配は消えていたが他人を拒絶するような意思はそのままだった。
エスティニアンも別に 慰めを押し付けるつもりはない。
部屋の面積の大部分を占めるベッドヘ腰掛けた。弦しいほどの窓際も、もう少し陽が傾けば狭い路地のせいで夕方を待たず差し込む光も届かなくなりこの部屋は翳り始める。
竜の眼を持ち出して自分の物置代わりに借りロクに戻りもしなかったここが今では二人が密会するときに使う様になっていた。
アルフィノは今フォルタン家の客人で帰るところではあってもこんな時、誰にも気兼ねしなくて もいい「居場所」はあそこには無いだろう。
 
「あいつらのしょうもない主権争いも毎度の事だ。オレはそんな面倒なものに関わるのは止めてしまったがご苦 労な事だとは思うぞ。まあ所診他人事みたいにしか言えないんだが」
 
しばらくの沈黙の後いつもの調子で軽口をたたくつもりで言うと、ふう、と小さいため息をついてアルフィノが 姿勢を変えてエスティニアンヘ振り向いた。
瞳がうっすらと潤み目元が赤い。泣いたのだろうか。
 
「・・・いや、こんな事別に今までにも見てきた。ありがちでありきたりな事さ・・・それに一々腹立つ自分の 弱さが情けないだけなんだ。」
 
まだ曇りはあるがいつもの品の良い微笑みを浮かべ、やれやれと手を左右に軽く上げる。
ベットに腰掛けたままのエスティニアンが来いというように両手を広げると、アルフィノは椅子から立ち上がり 脚の間に埋まるように座り頭をその胸にもたれかけせさせた。
 
「こんなにも、まだ弱かったのかと、私は・・・」
 
日ごろの物分りの良さにしても、感情を抑え悩みや苦しみを噛み締め耐えているのだろう。
立派な男になるのだ と意地を張りながら。それを見守る自分はこの程度の事しかきっとしてやれない。
腕の中で力を抜いたアルフィ ノをそっと抱きしめた。すると答えるように力が抜けて、まだ少年の細い体の重みとぬくもりが伝わってくる。
こんなものでいいのなら幾らでも与えたい。
 
「・・・?」
 
子供の体温とはいってももう十六だ。それにしては暖かすぎる。
 
「お前」
 
「 · · ·?」
 
腕を回し見えない顔の額に手をやった。
熱っぽいなんてもんじゃない。明らかに高熱だ。
 
「おい、熱があるだろうお前」
 
「ああ、何日か前から風邪っぼくはあったんだがさほど無理もしていないからそのうち治るかと・・・」
 
エスティニアンはベッドに掛けられていたアルフィノのコートを手に取るとくるむ様に巻きつけてそのまま抱き上げる。
 
「だ、大丈夫だ。歩けないほどじゃない・・・」
 
「馬鹿野郎すぐ医者に行くぞ」
 
問答無用で横抱きにして胸に抱え、狭い階段を足早に駆け下りた。

 

 

結局また騎士団本部に戻されてアルフィノは医務室へ問答無用でエスティニアンにほおりこまれた。
 
「エスティニアンが君を抱えて駆け込んできたときは一体なんの事件が起きたのかとびっくりしたよ」
 
「お騒がせしましたアイメリク殿。歩けるのだから大丈夫だとは言ったのですが・・・」
 
「風邪を舐めてはいけませんよ?」
 
病院長エーベルがやや強い口調でたしなめる。
 
「性質の悪い流行り病では無かったようですが今回はかなり悪化しています。今日は入院していただいて、熱が落ち着いたら自宅でしばらく安静にしてもらいますからね」
 
「諦めて大人しくしておけよ?」
 
ベッドに軽く腰掛けているエスティニアンが釘を刺す。
  
「ああ。そうするさ。また貴方に大騒ぎされては適わないからね」
 
「生意気なことを・・・」
 
「解ってるよ。心配かけてすまなかったと思っている」
 
こうしたやり取りもいつもの事だった。見下ろす瞳は優しい。
 
「・・・きっと、体調のせいだったんだろうさ。ご機嫌斜めだったのは」
 
「うん・・・そうだね」
 
指が汗ばんだ前髪を流く様に撫でる。気がつけばアイメリクもエーベルも部屋にはいなかった
 
「貴方も風邪が感染したら大変だ。薬ももらったし大丈夫だから」
 
「子供の風邪は大人にはうつらないんだぜ?」
 
「そんなことはないだろう。もう・・・」
 
エスティニアンの手のひらが前髪をかき上げると、露になった額にキスをされた。その手のひらが今度は目隠 しをするように視界をを覆い不意を突く様に唇にもキスが振ってきた。
 
「また様子を見に来る」
 
そう言って部屋を出て行き部屋は自分一人になった。
優しい感触が唇に残っている。
静けさの中、やがてふわ りと柔らかい弦量の様な睡魔に覆われてアルフィノは眠りについた。

 

 

その後結局三日ほどあの病室で過ごし、その間にもエスティニアンが見舞いには来てくれ、容態が落ち着いただろうと退院を許されてフォルタン家に戻ろうという時にも居合わせた。
光の戦士やタタル、エドモンまでも 見舞いにも退院の日にも迎えに来てくれたのだがアルフィノはエスティニアンが自分を抱えていこうとしないかやや心配していた。
 
「・・・なんだ送っていって欲しいなら任せろ?」
 
それもお見通しだったようで、結局普段はこんな調子なのだと拍子抜けしたような安心したような複雑な気分だった。

 

 

「もうほぼ治っているんだよ。これ以上寝ていては体力が返って落ちてしまう」
 
フォルタン家の自分に与えられた部屋でアルフィは寝巻きで背中にクッションを置いてベットに入っていた。
その枕元や周囲には本が山積みにされている。仕事絡みの書類やら連絡は来ているらしいのだがエドモンドが厳 戒態勢でアルフィノの手元に渡ることを阻止しているようで、食事でさえ部屋に用意されて軽い軟禁状
態だった。 心配しすぎかとは思うが皆に風邪を移してもいけないし甘んじて日がな一日読書でもするしかない。
 
「・・・こんな量を読むのも疲れないか?」
 
「もう読んだ事のある本ばかりだからね。退屈すぎてこうするしかないのさ。だから来てくれて嫡しいよ。いい暇つぶしになる」
 
「・・・絵本でも読んでやろうか?」
  
エスティニアンが退院して以来初めて見舞いに来たのだった。医務室にいたときはついでにでも寄れる場所だっ たのだし、さすがにここにまでは来ないだろうかとそこは諦めていたのだが、数日の短い間とはいえ見舞いを期待していたから無意識に言葉に皮肉っぽくなってしまったのかとアルフィノは自覚した。
 
「それはいいね」
 
膝の上に置いていた本と背中のクッションを横にやって、まるで眠る前のお話を待ちわびる子供の様に掛け布団 を首まで被って見せる。
 
「・・・どんなお話なのかな?」
 
「お前な」
 
そんな冗談のやり返しヘ笑って答える。
ベッドの横に沿うようにくっつけて置かれた小さな腰掛けに座ったまま、エスティニアンの手が潜りこんだ掛け布団の中の首筋に手を潜り込ませて沿わせる。
乾いて大きな手の感触。好きな感触だ。
そしてそのまま布団をめ くり上げず横からさらに胸へと愛撫を下ろしていく。
着ている長いワンピースの寝巻きを手繰り上げて柔らかい腹にたどり着くとびくりと素肌が震えるが、なだめるようにしばらく胸から腹までを撫で回した。
アルフィノは何も言わず目を閉じてなすがままになっていたが指がいつものやり方で突起をまさぐり爪で軽く弾 くと直ぐに反応して小さく硬く立ち上がる。
 
「ふ・・・」
 
顔を自分とは反対側に反らし堪えきれず小さく声を逃がした。
片手で交互に突起を指で押しつぶしたり周囲をそっとくるりと辿ると乱れ始めた吐息でせわしなく胸が上下する。
ひとしきり悪戯に遊びまわった指は下へと辿って行き、下着の中へ滑り込ませるとこちらもすでに立ち上がってしまっている。指先に柔らかく滑らかな熱い感触が当たった。
  
「うん・・・っ」
 
先端から握り込む様に手のひらで包み込み、形を確かめるように握り込むとトクリとそれは脈打つ。
顎先が軽く上が り逃れる様に背中を反らせた。
親指でなぞり上げ、人差し指は先端を叩くように刺激するとこぼれ出る量が増す。それをさらに塗りつけるように割れ目をこすり付けるともう耐えられないとでも言うように体はのたうち手はシーツをつかまる様に握り締める。
根元を少し強めに小指で締め上げてゆっくりとそのまま上にしごき上げた。そしてまた握りなおしそれを繰り返す。
 
「あ・・あっ・・・ダメだ・・・ダメだ・・・」
 
絶頂が近いのだろう。握り込んだまま手の動きを止めるとアルフィノは恨めしそうに、懇願するように顔を見つめる。
そしてエスティニアンの股間へ手を伸ばすが、それをもう片方の手で押さえつける。
 
「大人しく寝ていないと」
 
「嫌だ。このままじや・・・」
 
声を擁り出すように言うと開放した手をエスティニアンの頼へ伸ばし顔を引き寄せようとする。望み通りに顔を寄せて口付けた。
 
「・・・て・・・欲しい・・・」
 
頭を抱え込むようにしがみつき、耳元でそう小さくつぶやいた。体の芯から激しく熱のようなどうしようもない愛おしさと征服感が駆け上がる。
何を言ったのかは聞き取れたが、初めてのこの要求を聞こえない振りをしてもう一度言わせようかとも思った。
しかしさすがにここではそれは出来ない。
 
「ダメだ」
 
耳元にそう囁き返すと瞳がすがるように潤む。
「まだ病み上がりだろう? それに部屋にカギはかかってないぞ?」
その言葉にびくりと体を振るわせる。そして舌を差し込んで深い口付けをしたままそれの先端を手のひら全体を 強く擦り付けるようにして無で回す。
 
「あっ・・・あっ・・・」
 
首にしがみ付き、口腔を騒躍する舌に声を堪えることが出来ない。
 
「いく・・・あ・・・いく・・・」
 
握り込まれそのまま手のひらの中にすベてを吐き出した。

 

 

  

「・・・大人しくしてろって言ったくせに」
 
エスティニアンも気だるくぐったりとしたアルフィノを腕枕してベットに横たわっている。
 
「これで今夜は良く眠れるだろう?」
 
アルフィノは丁度枕元にあったクッションをエスティニアンの顔にばふりと押し付けた。

 

 

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