応接室のソファーに腰掛けて、ただぼんやりと暖炉の中の薪が燃え盛るのを見つめていた。
彼の「棺」が完成するのを待って。

やがて静かに従者がそれを告げにやってきて私たち数人はその部屋へ向かった
いくつかある客間の一つだろう
扉が開かれ一歩部屋に入ると中央にはおそらく本来なら身分不相応なのだろうと解るほど立派な棺が置かれていて生花の香りが周囲には充満している
誰も何も言わず、入り口で皆が立ち止まった
それが皆の暗黙の了解なのが解った

夢の中で歩くようなふわりとした心持の足取りでその棺へ近づくと
中には深紅のバラに埋もれる様に彼が横たわっている

茶目っ気のある性格にあわせてよく動いた眉根
男らしい骨ばった鷲鼻
変な事も真面目な事も恥ずかしげも無く言ってのけたやや神経質な感じがする唇
両手は胸の前で組まれ、その手には美しくやや細身の銀色の剣が握られていた
きっと名前にふさわしい物が選ばれたのだろう
そしてその顔には死化粧が施されていた
生気までは感じられないのは仕方ないにしても安らかに眠っている風には見える

死体ならいくつも見てきた
この世の色で一番おぞましいだろうと言う死斑で紫にはじけそうな顔達を
多分想像してしまっていたんだろう
その時心のどこかがほっとしていた

手を伸ばしてその鼻梁に触れ、頬をなぞる
体温が吸われてしまうような冷たさだった
解っているのに、納得できなかったのかもしれない
薄く紅の塗られた唇へ自分の唇を合わせて確かめた
しかしそれはやはり冷たかった


棺は多くのフォルタン兵の敬礼に見送られ館を出た
埋葬は貴族墓地ではなく多くの兵士が眠る平民の墓地なのだという
せめて最後だけは、という話もあったらしいのだが身分制度のけじめとしては許されなかったらしい
そんな事は別に彼にとってどうでもいい事だ。きっと


屋敷に与えられていた自分の部屋で、ただぼんやりとベッドに横たわり
あの眠るような顔をただ思い返していた
数回のノックにも答えるのが億劫でそのままにしていたが
遠慮がちにカチリとドアは開けられ、そっとアルフィノが部屋に入ってきた

「・・・葬儀は終わったよ」

そうか、と小さく頷いた

「場所は私が覚えているから、もし行くなら・・・」

ううん、と首を振った

「・・そうか」

アルフィノはベットのふちに腰を下ろし、真剣な横顔で何かを考えている
何か言葉を捜しているのだろう
ふと、その腕を取り巻き込むように抱きしめる
どのみちどんな言葉も捜せないのだ
そんな空しい時間を使う少年をからかうつもりだけだった
しかし、驚きはしたがすぐにその両腕は私の頭を抱え込んだ
まるでもみ合いのような体勢になるほどに、彼分の悲しみも含んだ強さで
その時に、唇が彼のうなじに当たった

「・・・暖かい」

しまった、やりすぎたかと思う前にポロリと言葉が出た

そして、そのままアルフィノは私を抱きしめ
私はもしここで泣いてしまえば心の何かを失いそうな気がして必死にこらえるしかなかった

 

 

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